十勝Z団(トカチゼットダン)

公益財団法人とかち財団

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令和5年度 LAND奨学金活動報告会「Presentation Day」レポート

2023年11月25日(土)、帯広駅前にあるスタートアップ支援スペース「LAND」にて、令和5年度LAND奨学金※活動報告会「Presentation Day」が開催されました。

「LAND奨学金(とかち財団学生起業家育成奨学金事業)」とは

十勝の産業振興の発展に寄与することを目的に、将来起業を目指す学生に対して公益財団法人とかち財団が給付する奨学金事業。本事業を通じて、起業家精神の習得、およびビジネスプランの磨き上げを図り、起業する学生を十勝から輩出することを目指します。2023年の実施で6年目となります。

まずはじめに、とかち財団の金山理事長より「地域における経済構造が、大きく変化している時代に入ったことを実感しています。たとえば地元百貨店の藤丸閉店に続いて、大型小売業の長崎屋の撤退、さらに来年はイトーヨーカドーの撤退など、続けざまに大型商業施設がなくなります。そんななか、この場から将来の産業活性化につながる『風』となるような、みなさんの活躍に期待しています」というエールから、プレゼンテーションがスタート。司会進行は、とかち財団の山口さんです。

(左側:とかち財団・金山さん、右側:同・山口さん)

採択者によるプレゼンテーション ビジネスプランの報告

2023年6月に採択後、採択者の3名は7月から11月までの計5ヶ月間でどのような活動を行ってきたのか、さらにはどんな成果が得られたのか、現在の課題や今後の目標などについて発表を行いました。

北海道大学 工学院 材料化学選考 博士後期課程1年
名合 虎之介(なごう とらのすけ)

【事業概要】
グリーンプレミア農業計画から泥炭活用ビジネスプランへ

農業分野における脱炭素化を進めるため、多様な農業機械に適応するCO2回収装置の開発及び販売を目指す。グリーンプレミアとは、農業を通じてCO2を吸収させることで農作物に付加価値をつけること。

当日の発表の様子

【活動報告】
北海道育ちで、北海道が大好きという名合さん。就職活動を迎えた時、友だちがどんどん道外へ就職することが寂しく、残念に感じていたといいます。そこで、北海道に人が残り、集えるシステムを作りたいという思いが、プランの始まりでした。


(名合さん)
「グリーンプレミア農業計画」の柱は3つ。

①農家のCO2排出量実質ゼロにすること。
農業機械から排出されるCO2は年間約46万トン。これを北大で開発に携わった特許技術でCO2回収装置を作り、トラクターに取り付けて排出量をゼロに抑えたいと考えました。

②農家の土壌にCO2を貯留すること。
北海道には114万ヘクタールの広大な土地があり、1ヘクタールあたり14〜63トンのC02を貯留=吸収できます。農家のCO2排出量が実質0になると、土壌のCO2 吸収量が排出量を上回り、農家は生産活動を通じてCO2を吸収できるということになります。

③各農家のC02貯留量をトークン(ポイント)化させること。
たとえば、農家で農作物を生産すると、それに付随してトークンも生産される。次に、この農作物を消費者が購入すると、それに付随してトークンも得られ、消費者はこのトークンを物品の購入や宿泊などに利用できるというしくみ。

この3つの柱によって北海道への観光客を増加させ、地域経済の活性化につなげるという計画でした。

その後、とかち財団のコーディネーターの方々に相談し、CO2ガスを販売している企業にヒアリングを実施したことで、CO2の回収方法などいくつかの問題点が生まれ、ビジネスプランを変更せざるを得ないことに。

そこで、CO2の回収方法を農業機械から排出されるCO2ではなく、北海道各地に存在する枯れた植物が分解されずに残った泥炭を燃焼させてCO2を回収し、CO2を炭酸ガスやドライアイスなどにして販売できないかというプランに方向変換。さらに、大学や関係各所へのヒアリングや、泥炭を活用したCO2回収の実証実験を実施。

今後の活動プランとしては、泥炭を燃焼させる前の工程で必要な乾燥手法を検討、別の方法でのCO2源を確保、回収したCO2を炭酸ガスやドライアイスの販売につなげる、特許技術の活用方法の検討などを進めていくそうです。

【活動の感想】
(名合さん)
このプランは、まだまだ課題が多いですが、もう絶対無理、となるまで最後までやりきろうと思っていますので、応援よろしくお願いします。


北海道教育大学 札幌校 教育学部 言語社会専攻4年
布川 舞桜(ぬのかわ まお)

【事業概要】
Tasuki-外見に悩む学生と美容専門学校生のマッチングサービス


外見に悩む学生と美容学生をつなぐマッチングプラットフォーム“Tasuki”を運営。リアルとオンライン両方を駆使しして、全国の外見に悩む学生が同じ世代の美容学生に悩みを相談することができるサービスを提供。

当日の発表の様子

【活動報告】
布川さんはオンラインで登壇。「誰もがスキップして学校に行きたくなる世界を作りたい」と語る布川さんの事業のきっかけは、高校時代のこと。まわりに華やかでかわいい子が多く、布川さんは「自分はかわいくないし」と本気で悩み、外見に自信が持てず、毎日を惨めな気持ちで送っていた、といいます。

その後教員になろうと北海道教育大学に入学した布川さんは、教育現場でかつての自分のような子ども(生徒)を何度も目にします。小学4年生のある女の子が、朝食を残していることを知った布川さんが「なんで朝食をそんなに残すの? もっと食べなよ」と言うと、その子から返ってきたのは「韓国アイドルは30kgだから、私も30kgにならなくちゃ」という答え。その子はかつての自分と同じだ、と布川さんは感じ、「なんとかしなくてはいけない」と思ったと語る布川さん。
そのような子どもたちの悩みの1つが、信頼して相談できる相手がいないこと。そこから、Tasuki(タスキ)の活動が生まれました。


(布川さん)
Tasukiは信頼できる相手への悩み相談の場をつくります。リアルやオンラインで外見に悩みを抱えている学生と、Tasukiに所属している美容専門学校生をつなぎます。

これは、悩みを相談する学生だけでなく、相談を受ける美容専門学校生にもメリットがあります。なぜなら、美容専門学校生たちは、就活(就職活動)時に「SNSのフォロワー数を履歴書に書かなければならない」ほど、ファンや見込み力の数、会話の経験などを求められるからです。しかし、それらのことを美容専門学校だけで身につけようと思っても限界があります。このようにTasukiは美容学生にとっても自身のスキルアップに繋げる場として機能します。

私はLAND奨学金のプログラム期間中に、高校生が美容専門学校生に相談ができる対面の相談イベントを実施して、43名の高校生が参加してくれました。他にも、美容意識が高い韓国に足を運び、現地で多くの方からTasukiの事業についてフィードバックをもらいました。

同時に、これまでの期間で外見に悩む学生250人にインタビューを実施。その結果、外見に悩む学生の特徴として、外見と存在価値を結びつけてしまう「ルッキズム」という考え方が大きく関わっていることがわかりました。Tasukiはそんなルッキズムを気にする学生に対してサービスを届けていきたいと考えています。
現在のサービス内容としては、相談の申し込みからヒアリングまでをオンライン上で行い、SNSのビデオ通話機能を活用して相談を行っています。
次なる目標はサービスの満足度向上です。Tasukiでは、外見に対しての相談の一環としてメイクに対する相談サポートも行っています。そこにAR技術を活用し、オンライン上でもメイクのやり方をわかりやすく伝えることができるような技術を搭載したいと考えており、現在開発を進めています。

【活動の感想】
(布川さん)
Tasukiのユーザーによる総合満足度は、5点満点で4.7。「心理的に明るくなった」と答えた人が92%。「味方がいるとわかってよかった」「もう自分のことが嫌いじゃなくなった」という声をたくさんいただいています。LAND奨学金に採択されたことで、たくさんの方に会うことができましたし、とても充実した活動ができました。


小樽商科大学 商学部経済学科2年
大砂 百恵(おおすな ももえ)

【事業概要】
もったいない昆布で地球温暖化を解決するe-Combu


十勝地域でも漁獲されている「昆布」が、国内メタン排出量の27%を占める牛のゲップを抑制するなど、多様な効果があることに着目。そこで、帯広畜産大や、十勝・広尾町の昆布漁師などと協力し、牛のゲップに含まれるメタンガスの抑制効果がある、地球にやさしい家畜用飼料添加物を開発して製品化、さらに販売を目指す。

当日の発表の様子

【活動報告】
もったいない(未利用)昆布を活用した家畜飼料開発に取り組む大砂さん。高校1年生の時の留学先で肌で感じた貧困問題に衝撃を受け、ソーシャルビジネスで社会を変えられないかということに興味も持ったといいます。また、曾祖父が昆布漁師をしていたこともあり、広尾町の海岸に打ち上げられている大量の昆布を見てもったいないと感じたことから、この構想がスタートしました。


(大砂さん)
神戸SDG's大賞を受賞した神戸の畜産・酪農家「弓削(ゆげ)牧場」に1ヵ月間住み込みで働かせていただき、そこで飼料の高騰化が深刻な課題であることを知りました。さらに、十勝・広尾町の漁師、保志さんに協力していただき、実際に昆布漁も体験するなど、現場でしか知り得ない情報や現場の課題についても知ることができました。 私は現在、昆布を活用して牛のゲップに含まれるメタンガス抑制効果のある飼料添加物を開発するため、帯広畜産大学と共同研究を行っています。昆布を用いた飼料を提供することで、飼料削減による牧場のコスト削減も視野に入れたビジネスプランを計画しています。

具体的には、昆布漁師さんから原材料となる昆布を買い取り、飼料を製造して畜産・酪農家さんへ販売。さらに畜産・酪農家さんは、牛のゲップから排出されるCO2の排出削減量を企業へ売買。これにより、畜産・酪農家さんへも還元できる、ソーシャルグッドなビジネスプランです。

しかし、課題もありますす。たとえば、昆布漁を安定させるためにどうすればいいのか。神戸にある食品メーカー、フジッコさんの昆布倉庫を見学させていただいた際に実感した、安定供給するための昆布の保存方法などの課題。東京大学の研究室で見せていただいた昆布粉砕機については、いかに強固な機械が必要かを実感。さらに、鹿児島県のエシカルミーツさんと共同研究で浮草の育成など、まだまだやるべきことがあるので、今後も会社登記も計画しながら、事業化へつなげていきたいと考えています。

【活動の感想】
(大砂さん)
5カ月間の活動を経て、さまざまな課題が浮かび上がりました。それらを踏まえて、今後はビジネスプランをより具体的に事業計画書に落とし込み、活動を加速化させていきたいです。


昨年度採択者による講演

株式会社KIYAI
北海学園大学2年生
渡邊 輝(わたなべ ひかる)

オンラインで登壇した渡邊さんの様子

最後に、昨年度LAND奨学金に採択され、奨学金プログラム終了後も活動を継続、現在株式会社を設立して事業展開している渡邊さんに、現在の取り組みや起業してからの課題、今後の目標などについて伺いました。

渡邊さんは、テクノロジーと農業を掛け合わせた事業アイデアで廃棄される果物を削減、農家さんを助けるシステムを構想。その後ITの会社を起業し、交通量調査や札幌のIT企業と共同開発でバスの乗車人数をカウントするセンサーなどの開発にも着手。現在は、果物を用いたスムージーやノンアルコール飲料の商品化など、現在取り組んでいる事業について紹介。高校時代に起業家のイーロン・マスクに憧れ、経営者になりたいという思いからスタート、今後はサービス内容をさらに膨らませて、ユニコーンを目指すという夢も語ってくれました。

閉会のあいさつ

「学生のみなさんの成長がわかる発表を、ありがとうとざいました。5ヵ月間でいろいろな方と会ったり、企業訪問も行い、プランの見直しや新しいアイデアなど、思考が行き来していたと思います。このような計画で大切なのは、周りから何を言われても自分はこれをやるんだ!という強い意志。その気持ちを抱きながら、今後もがんばってほしいし、期待しています」という、とかち財団・執行役員 森川芳浩事務局長からの力強い応援メッセージで閉会しました。

まとめ

十勝の地域経済に発展する、次世代の起業家の人材発掘および育成を目指して行っている、LAND奨学金。書類選考と面接選考を経て、2023年度は13件の応募から3人が選ばれました。「起業への強い意欲だけでなく、十勝を拠点とするビジネスや、十勝の資源を活用するビジネス、十勝の事業者さんと連携するビジネスなど、十勝という地域とどう関わるのかも選考の際の大きなポイントです。応募の前でも、LANDのコーディネーターへ連絡していただければ、アドバイスしますし、相談にも乗ります。積極的に僕らを活用していただきたいです」とLANDの高橋コーディネーターから来年度の応募に向けてメッセージがありました。LAND奨学金に興味のある学生はぜひ一度LANDに相談してみてください。