十勝Z団(トカチゼットダン)

公益財団法人とかち財団

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一次産業と食の事業創発ビジネスカンファレンス「十勝アグリ&フードサミット2023」(とかち財団主催)が10月12日、帯広市内のベルクラシック帯広で開かれました。前編では、ビジネスマッチングの様子と、「とかちいいものマーケット」や北海道宇宙サミットとの合同セッションをレポート。後編では、メインイベントである3つのセッションを詳しく紹介します。また、今年のセッションでは、会場を訪れた参加者の投票によりトークテーマが決まる、インタラクティブなセッション形式を導入。来場者に選ばれた質問に登壇者が応える方式に多くの参加者が耳を傾け、大いに盛り上がりました。


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セッション1: 十勝・北海道の地域資源とグローバルスタートアップの連携


セッション1は、一次産業と食のフィールドである十勝が、なぜ今、海外企業から注目されるのか?そして、海外企業との連携によって、どんなシナジーが生まれるのか?農・食を中心とした地域資源に着目し、地域企業と海外企業との連携による新ビジネス創出について、今まさに十勝の企業と連携しようとしているノルウェー企業の代表や、日本と海外を繋ぐビジネスに取り組む企業、そして海外スタートアップと北海道を繋げる支援機関の3人が登壇。モデレーターは、主催のとかち財団と連携協定を結んでいるJAグループのアクセラレータ一般財団法人AgVenture Lab代表理事の荻野浩輝氏です。

【登壇者】
・デビッド・アンドリュー・クイスト(Norwegian Mycelium 共同創設者 兼 最高科学責任者)
・ファリザ・アビドヴァ(Trusted株式会社 共同設立者 兼 CEO)
・田中 美帆(Startup Hokkaido)
【モデレーター】
・荻野 浩輝(一般社団法人AgVenture Lab 代表理事)

まずは!自己紹介



デビッドさん
「菌糸体の生物学者であり、ノルウェーでレストラン経営もしています。2020年に食品工場などの排水から菌糸体を培養し代替たんぱく質を作り出す企業、Norwegian Myceliumを創設。副産物や廃棄物を食品へ価値転換する循環型食料システムを構築してきました。食料自給率の低い自国で実践している菌類から食品原料に変換する技術を活用して、日本の食料生産を支援して、持続可能な食料生産体制を実現していきたいです。いずれは自国で経営するラーメン店で菌糸体プロテインパウダーを使ったチャーシューを作りたいと思っています」

ファリザさん
「国際的な視点や経験から日本でいくつかの会社を起業してきました。現在は、Trustedという会社を立ち上げ、海外の大企業と日本のスタートアップの、国境や業界を超えた連携によるイノベーション支援に力を注いでいます。最近のテーマは、モビリティとスマートシティ。あとはエネルギー関連で多くのプロジェクトに挑んでいます。農業とも近い領域の案件もあり、繋げていきたいです」

田中さん
「Startup Hokkaidoで海外スタートアップ誘致を担当してきました。現在は、『スタートアップビザ』という海外から来た起業家が日本で事業を開始するための北海道滞在ビザの発行事業を担当し、海外スタートアップを日本に誘致しています。これまで北海道庁と一緒に動いていて昨年は20人くらいの起業家を支援しました」

Q 十勝が海外から注目されるポイントは?


荻野さん
「それでは、場内参加者が選んだ質問に沿って進めていきましょう。1つ目は『Q十勝が海外から注目されるポイントは?』です。」

デビッドさん
「日本最大の食料供給基地である北海道は、副産物も多く、循環型のビジネスチャンスがあると思います。そして何より、北海道の方は心が豊かで、我々を受け入れてくれるのを肌で感じています。」

ファリザさん
「先日、2年ぶりにヨーロッパを周ってきましたが、トレンドとして、サステナビリティ関連ビジネスが強い印象を受けました。技術革新が目覚ましく、しかもスピード感を持って社会実装されている点にも驚きました。大学や研究機関の段階で戦略的に仕組み化されて、すぐに社会実装していくという流れは日本でも真似していきたいですね。」

田中さん
「北海道に足りていないのは資金だと思っています。例えば、シンガポールのビジネスのキャピタル・マーケットはドバイですが、北海道はポテンシャルが高いので不足している資金が注ぎ込まれれば、それだけで大きく変わっていくと思います。」

荻野さん
「サステナビリティ関連ビジネスやクライメイトテック(気候テック)が欧米で盛り上がっていますが、数年後には日本にもその流れがやってくるので、循環型社会というテーマは確実にトレンドになっていくと感じています。」

欧州の当たり前を北海道へ。資金支援増に皆が同意


その後も参加者が選んだ質問へのトークセッションが続きました。一次産業、特に農業において、今後注目されるエリアやトレンド、なぜ十勝がその中で海外からの注目を集めるのかについての話題が展開されました。

登壇者の3人からは、欧州をはじめとした先進国では、サステナビリティ関連ビジネスや農業の自動化といった取り組みがすでに実践されており、社会全体にその成果が実装されているという指摘がありました。こうした背景をもとに、今後十勝においてもこれらのが広がっていく可能性が非常に高いとの見解が示されました。

ヨーロッパとよく似た十勝の地勢や気候、そして資源を活かせば、欧州と同じような取り組みを十勝でも展開できる可能性があり、これが数年後には大きなトレンドとして訪れることが予想されています。
しかし、ただの可能性として終わらせないためには、具体的な取り組みが求められます。その1つとして、新しいアイデアや事業モデルを持つスタートアップを資金的にサポートする仕組みの構築が必要との意見が交わされました。北海道内でのそのようなサポート体制の早急な整備が、十勝の一次産業や食の未来を切り開く鍵となるではないでしょうか?

セッション1アーカイブ映像はこちらからご覧いただけます:YouTube「LANDチャンネル」へリンク

セッション2:食!農!サーキュラーエコノミー!


セッション2は、十勝で身近な「農業」「食」に関連した資源を新たな価値に変換することで、地域持続性を高めるオリジナリティあふれる取り組みを実践している企業が登壇。環境への貢献を目指したビジネスモデルのアイデアや事例が紹介され新たな発想を得る手掛かりとなるセッションになりました。

【登壇者】
・窪之内 誠(環境大善株式会社 代表取締役)
・西山 すの(株式会社komham 代表取締役)
・町田 紘太(fabula株式会社 代表取締役CEO)
【モデレーター】
・植田 康裕(公益財団法人とかち財団 LANDコーディネーター)

まずは!自己紹介



窪之内さん
「環境大善の窪之内です。北海道北見市出身でICT 機器販売責任者を経て、2016に年環境大善株式会社に入社。2019年に代表取締役に就任しました。牛の尿を微生物で分解し、得られる液体を消臭力や土壌改良剤として利用するアップサイクル型循環システムを生業としています。技術は父が開発し、継ぎました。本気で牛のおしっこで地球を救うことを考えています。私の代となり、父の考えをもとに、地元北見工業大学と共同研究することで製品の品質の安定やエビデンスをとってきました」

西山さん
「komhamの代表取締役の西山です。北海道出身で大学卒業後、PR 会社を経て、2016 年クリエイティブファーム株式会社パーティーに参加。2018 年よりフリーランスとして独立後、パーティー社案件に加え、和牛やワンメディアなどスタートアップの PR ブランディングを担いました。2020年にkomhamを立ち上げ、代表取締役に就任しました。当社は、人と地球に優しい、新しいスタンダードを想像することを目指して事業展開しています。中でも、生ゴミを分解する微生物の研究と技術を活用したスマートコンポストという、AC電源や排水処理を必要としないソーラー発電で自動駆動する独立型の生ごみ処理機を開発しました」

町田さん
「東京大学のコンクリート研究室で建設材料の持続可能化を目指し、食品廃棄物から作る新素材を開発してきました。卒業後、fabula株式会社を設立し、"ゴミから感動を作る"をステートメントに、あらゆる廃棄物の価値観を再定義しています。例えば、果物や野菜の食品残渣を乾燥させ、熱と圧力を加えることでコンクリートよりも硬く、土に還る新たな素材を生み出しています。しかも、原料になるのは単一のものでも混ざっているものでも可能で、そういうものを金型に入れて作った素材を建材や食器などのプロダクトに変えていく取り組みを進めています」

Qビジネスの種の発想と具現化のプロセスを教えて


植田
「牛の尿や、コンポスト、野菜など、十勝にたくさんある資源ですよね。それらを使って今までなかった価値を生み出している方々が、このセッション2の登壇者です。
それでは、場内参加者が選んだ質問に沿って進めていきましょう。『Qビジネスの種、発想と具現化のプロセスを教えて』が問いです。先ずは、窪之内さんお願いします。」

窪之内さん
「当社のビジネスの原点は、先代の父の勘違いというか思いつきから生まれたんです。当時、父はホームセンターを経営していて、そこに牛の尿を原料とした作物がよく育つ液体の売り込みがありました。当初は断ったらしいんですが、その液体は無臭だったんですね。『牛の尿を使っていて匂いがないというのはすごい』と感じ、消臭液が作れるんでは?と思い、研究をはじめたのがきっかけです。そうして牛のおしっこを使って作った消臭液『きえーる』です」

西山さん
「当社も、創業者である私の父の思いつきからスタートしています。堆肥化の技術は父が見つけた微生物からスタートしています。その仕組みを応用させた生ごみ処理システムが私の『スマートコンポスト』です。コンポストとは、微生物に生ごみなどの有機物を分解させて堆肥を生成する仕組みを指すんですが、分解過程で排出される二酸化炭素は、温室効果ガス排出量に換算されないため、環境負荷が少ない生ごみ処理方法と言われているんです。父が見つけたKomhamのコンポスト使っている微生物は通常のものよりも何倍も速く分解でき、入れた廃棄物も通常より減容できるのですが、なんとなく凄いだけでは伝わらないので、私の代でそこにテクノロジーやロジックなど、いわゆるエビデンスを積み重ねて納得してもらえる製品に作り込んでいきました」

町田さん
「僕の場合は、もともと大学でコンクリートの研究を行っていたことが切っ掛けです。現在コンクリートの材料になる砂利や砂などの資源が不足しているんですが、それを解決するための手段を探していくなかで野菜を使うという新しい道に進んでいったという感じです。昔からあるコンクリートを作る技術を活用し、それまで使ってこなかった素材からコンクリートの代わりになるものを作るならば、その素材を使う理由やその素材を使うことが何かの解決につながるものが良いと考えるなかで、食品廃棄物を使った製品の開発に繋がっていったというわけです。」

それぞれの市場への参入アプローチに場内大盛りあがり


続いて「従来にない技術・製品が受け入れられるには、どんな壁がありましたか?」という質問が投票で選ばれ、トークセッションの参加者たちは独自アプローチについて語りました。

食品廃棄物を原材料として新しい素材を生み出す町田さんは、様々な種類の野菜から製品を作り出せる多様性があるので、受け入れられる部分にはさほど壁は感じておらず、むしろ、廃棄物を活用して作り出した新たな素材からその素材の特性を生かしたどのようなプロダクトを創造していくか「その使い道」を見つけることが課題と語りました。。
一方、西山さんは、新技術や製品の受け入れを得るためには「エビデンス」が不可欠だと強調。具体的な証拠やデータを提示し、その裏付けを通じて信頼を築くことの重要性を訴えました。
そして窪之内さんは、ブランディングの力を強調。製品や技術だけではなく、その背後にあるストーリーや価値を伝え、信用を築くことが必要だとの立場を示しました。

それぞれの発言から、革新的な技術や製品が広く受け入れられるためには、多角的なアプローチと戦略が求められることが分かりました。それぞれの経験に基づく手法が紹介され、これからビジネスを広げていく方の参考になるトークセッションでした。

セッション2アーカイブ映像はこちらからご覧いただけます:YouTube「LANDチャンネル」へリンク

セッション3:道東・地方創生!ローカルビジネス最前線!


セッション3は、道東(東北海道)エリアの魅力を最大限に引き出し、新たなビジネスを展開する企業が登場。一次産業や食を中心とした地場産業との密接な関係性に根ざした最前線の企業の取り組みから、持続性や競争力、価値を高めるための新たな視点やアイデアが得られるセッションでした。

【登壇者】
・井田 芙美子(株式会社いただきますカンパニー 代表取締役)
・竹下 耕介(有限会社竹下牧場 代表取締役)
・山上 裕一朗(株式会社山上木工 専務取締役)
【モデレーター】
・高橋 司(公益財団法人とかち財団 LANDコーディネーター)

先ずは!自己紹介



井田さん
「いただきますカンパニーの井田です。羊飼い志望から観光業に転身。2人の子どもをワンオペで育てるには、起業するかしないと考え、『畑ガイド』という新しい農業体験ツアーを立ち上げました。日頃は入れない農場をガイドが案内するピクニックは日本初の試みでしたが、気づけば、海外富裕層の方々が利用するまでになりました」

竹下さん
「有限会社竹下牧場の竹下です。中標津町で牧場とゲストハウス『ushiyado』と『コワーキングスペース milk』のほか、竹下牧場チーズ工房のチーズ職人の傍ら、完全オフグリッド宿『farm villa taku』を運営しています。基本は酪農家ですが『牛と新しい関係を』をスローガンに、牧場から個と輪をデザイン、地域活性化に取り組んでいます」

山上さん
「山上木工の山上です。津別町で生まれ育ち、工作機械メーカーDMG森精機を経て、Uターンしました。廃校を利用したショールーム『TSKOOL(ツクール)』を開設。東京2020オリンピック・パラリンピックメダルケースの製造受託のほか、自社ブランドの海外展開に挑戦中です」

Q製品やサービスの価値を高めるために、大事なことは何ですか?


高橋
「最終セッションでは道東エリアでローカルビジネスの最前線で活躍するメンバーに集まっていただきました。3人に共通するのは、地域の産業に根ざしたビジネスを展開していること、地域の中での役割を意識して動かれていること、そして、それぞれの地域で新たな価値を創出している3つの共通項を持っている方々です。そんな3人への会場からの質問は『製品やサービスの価値を高めるために、大事なことは何ですか?』です。まずは、井田さんお願いします。」

井田さん
「私の仕事場は、小麦畑や農作物を生産する畑です。十勝に住む人にとっては当たり前の景色でもあるのですが、この風景、素晴らしいですよね。ただ、これまで、価値という点では、小麦粉になるまで価値が見出されていませんでした。それがもったいない!と思ったのがビジネスのきっかけです。この素晴らしい景色をガイドが案内することで観光ビジネスになるのではないかと。そうして生まれたのが『畑ガイド』です。つまり、私は景観を価値として見出しました。食というのは食べるという普遍的で尊い価値があります。それを、口に入る前の過程を体験していただくことで、食の大切を感じて貰えればと思っています」

竹下さん
「中標津町は、牛を飼い、ミルクを絞ることで外貨を稼ぎ成長してきた町です。私が父の跡を継ぎ、たくさんの学びを得ながら見出したのが、場所の価値で対価を得ることです。牛を飼い、ミルクを絞って価値を得るという光景が広がるまちの特徴を生かして、コワーキングスペースを作りました。また、ミルクの価値を高めるためにチーズをつくり、付加価値をつけました。さらに、日本で最も東側にある空港の価値を活用し、ゲストハウスや宿泊施設も運営しています。利便性とともに、他では見られない景色、そして体験を組み合わせることで、中標津の新たな価値を提供したいです」

山上さん
「津別は人口5,000人ほどの町です。そんな田舎の木工家具屋なのですが、インターネットの普及で、零細企業でも挑戦すれば、全国や世界を目指せる!をテーマに事業展開してきました。工業製手工業である建具の世界に工作機械を取り入れ、コンピュータ制御でたくさんの家具を製造できる体制を構築し、そこにデザイン性とそれまで積み重ねた職人の技を組み合わせ得ることで、自社ブランド化させました。そして、全国へ販売し、海外も今では7カ国に広がっています。売れることで、さらにブランド価値が高まり、前述のメダルケースの受注や新幹線の取っ手といった、田舎の木工家具屋では考えられないような仕事を全国、世界で請け負うことに繋がりました」

高橋
「地域をしっかりと理解し、元々の価値をさらに高める、あるいは新たな視点から、違う価値を生み出すことでビジネスとするヒントを得られる内容だったと思います。」

3人3様の未来予想。それぞれが持つビジョン


製品やサービスを成功へと導いてきた先見の明を持つ3人に、地域の10年後の予測というテーマの質問が選ばれました。

竹下さんは、人口減少の中で、単純に「サービスを増やす」のではなく、「今ある価値を共有する文化」が重要になると述べました。山上さんは、情報発信の力で新しい繋がりを築き、それを深化させることで、共有する価値が増えるとの見解を示しました。個人の夢としては、更なる海外展開も視野に入れているようです。
一方、創業して約10年の井田さんは、未来を予想するのは難しいとの立場。東日本大震災やコロナといった大きな変動を例に挙げ、10年後の予測は難しいと強調。しかし、新しい発想や若い世代のアイデアを持ち込むことで、未来はどんどん変わるとのポジティブな視点も。
井田さん自身は「いただきます」の心を持つ体験を多くの人に提供したいという強い信念をもって活動しており、観光だけに留まらない新しいアプローチを模索中であることを明らかにしました。

3人3様の未来予想。それぞれが持つビジョンや思いが、今後の地域や業界の方向性を予感させる興味深いトークセッションとなりました。

セッション3アーカイブ映像はこちらからご覧いただけます:YouTube「LANDチャンネル」へリンク

まとめ


2023年10月12日に開催された十勝アグリ&フードサミットは以上で幕を閉じました。カンファレンスは、一次産業と食をテーマに、地域資源を活用した新しいビジネスを見つける切っ掛けとなったことは間違いありません。

ビジネスマッチングに参加した24社は、それぞれの課題解決や新たな事業展開の商談を熱心に行っていたのが印象的でした。
参加者同士の熱い思いが交錯する中、革新的な経営者たちのトークセッションでは、参加者にとって、多くのヒントやアイデアが得られる機会となったことでしょう。
そして、「とかちいいものマーケット」では十勝の美味しい食材や製品など来場者は地域の魅力を存分に味わうことができました。

十勝アグリ&フードサミットは、単なるカンファレンスではなく新しいビジネスの可能性と地域の魅力を同時に体験できる特別な場です。毎年開催されているこのイベント、あなたも来年は十勝アグリ&フードサミットに参加し、未来のビジネスの可能性と地域の魅力を体感してみませんか?


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